ヒト抗体作製において、トランスジェニックマウスを用いた免疫法は、動物の体内で自然な形で親和性の高い重鎖と軽鎖のペアを作製できるという利点があります。
Trans Chromosomicsは、抗体医薬の迅速な開発のためのツールとして、独自の人工染色体ベクターを用いたTC-mAb マウスを開発しました。
TC-mAb マウスは、ヒト抗体遺伝子の可変領域と定常領域を完全長で導入しているため、ヒト由来の抗体と同様に多様なレパートリーを持っています。
ハイブリドーマ法、ファージディスプレイ法、シングルセルクローニング法で抗体取得可能です。
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マウス人工染色体ベクター(MAC)は、天然のマウス染色体から遺伝子領域を取り除き、染色体としての最小限の機能と構造を持つベクターで、Mbサイズの巨大遺伝子や複数の遺伝子を導入することが可能です。
MACは細胞内で安定に維持され、交配によりマウスの子孫にも伝達します。
ヒト-マウスキメラ型抗体産生マウスから得られる抗体は、定常領域をヒトに置換してヒト抗体にする必要がありますが、TC-mAb マウスが産生する抗体は完全ヒト抗体です。
TC-mAb マウスでは抗原特異的なB細胞が産生されやすいという特徴を持っています。
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TC-mAb マウスから、IgG1を中心にIgG2, IgG3, IgG4, IgM抗体が得られます。野生型マウスよりも免疫応答が遅いため、通常より2-3回の追加免疫が必要としますが、同一抗原(EpCAM)に対する抗体取得効率を比較した結果、TC-mAb マウスは WT マウスよりもはるかに多くの抗原特異的モノクローナル抗体を取得できることが示されました。
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V(D)Jの組換え頻度もヒトと類似していることが示されました。
TC-mAb マウスでは、使われているV セグメントに偏りがなく、多様な mAb の発現に寄与しています。
CDR3Hの長さはヒトと同等であり、ヒト抗体の産生がTC-mAb マウスで再現されていることを示唆しています。
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TC-mAb マウスを免疫することによって生じる体細胞突然変異(SHM)は、CDR1、2、3領域に頻繁に見られます。
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TC-mAb マウスは脾臓細胞の絶対数が野生型マウスに比べて少ないですが、B細胞発生の表面マーカー解析から、TC-mAb マウスでは形質芽細胞(Plasma cell)と形質細胞(Plasmablast)がよく分化している(割合が高い)ことが明らかになりました。このため、TC-mAb マウスでは抗原特異的mAbが高い効率で得られると思われます。
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Efficient human-like antibody repertoire and hybridoma production in trans-chromosomic mice carrying megabase-sized human immunoglobulin loci
Nat Commun. 2022 Apr 5;13(1):1841. doi: 10.1038/s41467-022-29421-2.
PMID: 35383174